JOURNAL · HERITAGE & CRAFT
エルメスの物語、
受け継がれる創造のかたち
パリの馬具工房から、シルク、シューズ、そして銀座へ。
ものづくりを支える歴史と文化をたどる、9つの章。

01 / ROOTS · 1837
馬具工房から始まる、美と機能の関係
1837年、ティエリ・エルメスがパリに開いたのは馬具の工房でした。軽やかさと丈夫さを両立する仕事は、1867年の万国博覧会でも評価されます。1880年には息子シャルル=エミールがフォーブル・サントノーレ通り24番地へ移転。工房と店が隣り合うこの場所が、メゾンを象徴する住所になりました。[1]
馬具は、使う身体の動きと、素材の強さの両方を考える道具です。その出発点を知ると、革の質感や縫い目を、美しさと実用性の関係として眺めることができます。上の写真は、この歴史的な住所を2006年に撮影した実際の風景です。
02 / FAMILY & INNOVATION · 1922
伝統を守りながら、暮らしに新しい仕組みを
エミール・エルメスは、馬具の知識を旅や日常の道具へと広げました。1922年には、後にジッパーとして知られる留め具の権利を取得し、バッグづくりに取り入れます。変わりゆく暮らしを見つめ、役立つ仕組みを探す姿勢も、家族が受け継いできた文化のひとつです。[1]
ここで語られる革新は、ジッパーそのものを発明したという意味ではありません。新しい技術と、それまでに蓄積してきた革の仕事を結びつけたこと。歴史をたどるときには、継承と変化の両方に目を向けたいものです。
03 / SILK · 1937
一枚のシルクに、想像力を描く
1937年、最初のシルクのカレ《オムニバスと白い貴婦人のゲーム》が生まれました。一枚の布が、描く人、色を考える人、印刷や仕上げを担う職人の対話を通してオブジェになります。公式資料は、シルクを多様な表現が生まれるキャンバスとして紹介しています。[5]
絵を見る楽しさと、身体にまとって動く楽しさ。同じ図柄でも、結び方や折り方で見える部分が変わります。完成したかたちを受け取るだけでなく、使う人が日常の中で表情を加えていく。その視点は、長く使うオブジェとの関係を考える手がかりにもなります。
04 / SYMBOLS
馬車のエンブレムと、オレンジの箱
1945年、エミールのコレクションにあったアルフレッド・ド・ドルーの馬車の絵が、メゾンのエンブレムになりました。馬具づくりの記憶を、ひとつの絵の中にとどめる象徴です。[6]
オレンジボックスの色は、戦争に伴う紙不足で従来の紙が手に入りにくくなったことから定着したと、公式の物語で語られています。偶然の出会いと工夫が、今日よく知られる姿につながったのです。箱の変遷やリボンにまつわる話は、ランタンエルメスの特集で、実際の資料とともに読むことができます。[7]
公式特集「オレンジボックス 7つの物語」05 / FOOTWEAR
サンダルから、現代のシューズへ
エルメスの靴の物語は、《オラン》よりも前から続いています。公式沿革には1928年のサンダルの発表が記され、1976年にはジョン・ロブとともに靴づくりの技術を広げたことも紹介されています。ブランドの創立年と、靴の歴史の節目を分けて眺めると、ものづくりの領域が広がる様子が見えてきます。[1]
以下は公開された公式年表で確認できる主な出来事です。すべてのモデルを網羅したものではなく、1972年を「ブランド史上初めて靴をつくった年」とするものでもありません。[2]
- 1928サンダルの発表
公式のブランド史に、時計とサンダルの発表が記されています。
- 1972レディスシューズの節目
2016年の公式年表が、レディスシューズの展開を記録しています。
- 1997メンズシューズと《オラン》
公式年表に、メンズシューズとサンダル《オラン》が登場します。
- 1998スニーカー《クイック》
日常の装いに向けたシューズの歩みが、年表に続きます。

06 / DESIGN · 1997
《オラン》、輪郭が語る一足
1997年にピエール・アルディが生み出したサンダル《オラン》。特徴的なHのカットと簡潔な輪郭を軸に、色や素材を変えながら展開されてきました。長いシューズの歩みの中で誕生した、象徴的なモデルです。[3]
輪郭、革の表情、足元との関係。ひとつのデザインを眺めることは、自分が長く大切にしたい一足を考える時間にもなります。実際に選ぶ際には、個々の商品写真や素材、サイズの情報を確かめることが大切です。
07 / SAVOIR-FAIRE
技術は、人から人へ
2021年9月6日、エルメスは職人を育てる《エコール・エルメス・デ・サヴォワールフェール》を開設しました。現場の職人が教える教育は、手の動きだけでなく、素材を見る力や仕事への姿勢を次の世代へ伝えます。クラフトマンシップは、完成品の美しさと、その先を担う人づくりの両方に支えられています。[8]
職人の仕事を紹介する《Hermès in the Making》では、受け継がれた技と創造性に目を向けることができます。完成した品を見つめるだけでなく、そこへ至る人の仕事を知ることも、ブランド文化を読む入口です。[4]

下の公式映像では、パンタンの皮革アトリエで経験を伝える職人たちをたどります。《Footsteps Across the World》は、映像作家フレデリック・ラフォンによる、人と場所をめぐるシリーズです。この作品は皮革・バッグの工芸を紹介するもので、靴の製造工程を記録したものではありません。[9]
この映像は静かな語りを含む作品です。音量が小さいと感じる場合は、プレーヤーの音量とご利用端末の音量をご確認ください。
YouTubeで公式動画を見る出典:Hermès公式YouTubeチャンネル · Pantin: The leather legacy of the Blouse Brothers | Hermès Footsteps Across The World
08 / EQUESTRIAN WORLD
馬とのつながりは、いまも続く
馬具を原点とするメゾンの物語は、現在の馬術の世界にもつながっています。公式映像《Saut Hermès 2023》は、グラン・パレ・エフェメールで開催された馬術大会の風景を紹介します。これは現代の大会映像であり、創業期の記録映像ではありません。[10]
馬と騎手が呼吸を合わせる場面を見ると、道具の機能や使う身体へのまなざしという、最初の馬具工房のテーマをあらためて考えることができます。歴史を年号だけで読むのとは異なる、動きの中のブランドストーリーです。
映像を見比べるときは、一方を停止してからもう一方を再生してください。
YouTubeで公式動画を見る出典:Hermès公式YouTubeチャンネル · Saut Hermès at the Grand Palais Éphémère 2023
09 / GINZA · 2001
街を照らすメゾン、文化を育てる場所
2001年、銀座メゾンエルメスが誕生しました。レンゾ・ピアノによるガラスブロックの建築は、街を照らすランタンのような姿を見せます。上階のギャラリーや小さなシネマから文化を取り込み、創造へつなぐ発想は、店を買い物の場所だけに留めない、メゾンの好奇心を表しています。[11]

パリの住所と、東京の建築。その間には、土地の文化やつくり手との対話があります。足元の一足からブランドに興味を持ったとき、シルクの図柄、箱の物語、建物や映像へと視野を広げてみる。ひとつのオブジェの背景は、そうして少しずつ豊かになっていきます。
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